4人掛けの席にいる常連さんの「暁ちゃんブドウ美味しかったよ」という声が聞こえた。
「よかった」と暁は答えている。

なにしろ毎日のように来ていることもあって、彼女は常連さんたちともすっかり仲良しだ。
どんなことにも興味を示し、教えてもらえば心から感動するので、話し甲斐があるのだろう。旅行のお土産をもらったり、まるで町内会の一員のように可愛がられている。

それから暁は、バッグから取り出したノートパソコンを睨み、私は片付けやらに集中し、
やがて、常連さんたちはパラパラと店を後にした。

ふと暁を見れば、眼鏡をかけて、前髪を精一杯前に下ろしている。
変装のつもりなのだろうか。
なぜ変装する必要があるのかはわからないが、暁には必要なことなのだろう。

仕事なんてやっていられないとか言いながら、ノートパソコンを広げるあたりは、責任感の強い彼女らしい。文章を打つことくらいしかできないというが、それでも使いこなしているのだから大したものだ。
パソコンに向かう清少納言。そう考えるとおもしろい。

クスッ。

「はい。アイスはおまけね」

お客さまは暁だけになったので、コーヒーの他に、ブドウを添えたアイスクリームをサービスした。

「サンキュー。もしかしてこれ? あの方が食べたのと同じ?」

「うん、同じだよ」

「うわぁ、感動」
掲げるようにアイスクリームが乗った皿を持ち上げて、彼女は大きなため息をつく。