常連さんが催促してきた。いつもなら言われる前に持って行くのに。

「あ。はーい、ただいま」
――ああ、もぉ。暁が変なこと言うから。

「お待たせしました」

「ねえサダちゃん、最近すごく素敵な男の人来るわよね?」

「え? そんな人いましたっけ?」

間違いない。一条さんのことだと思いながらとぼけてみる。

「もぉー、いるじゃないの。背の高い人よ。今日も来るのかしらねぇ」

意味深な笑いには、恋とか愛とかを期待している様子がありありと見えるけれど、私は気づかぬふりをした。

「どうでしょうねぇ」

その後現れたスナックのママも。雑貨屋のご主人にも、この前朝からイケメンが店の前に立っていたとか、夕方また見かけたとか言われたりしたので、どうやらすっかり彼は有名人らしい。
背の高いイケメンはやはり目立つのだろう。

その日の午後3時前。
店に飛び込んで来るようにして、暁が現れた。

「あれ? 仕事はどうしたの?」

「もちろん早退した。一大事だもん。あたしはあっちの席にいるからね」
小声でそう言うなり、暁は窓際の二人用の席へとスタスタ歩いていく。