次の日の朝、暁に聞いてみた。

「ねぇ暁。一条定ってさあ、相変わらず謎の人のままなの?」

一条定を帝の生まれ変わりだと怪しんでいる暁は、隙あらば彼に関する情報を漁っているのである。

業界でいえば暁の勤務先も同じ出版社。
持ち前の行動力を発揮して、とある作家の受賞記念パーティに行き、彼の小説を扱う出版社の編集者とも知り合いになっている。

しかし彼に関してはとにかくガードが堅い。
彼の本を出版しているのは一社のみで、担当が誰かということさえ秘密にされているという。

先週暁から聞いた話では、いまのところ一条定についてわかっているのは、アラサーの男性だということだけだった。

「あ、それがね。相変わらず守りが固くて正確なことはわからないんだけど、たぶん見つけた」
「え? どういうこと?」

バッグからスマートホンを取り出した暁は、画面に指を滑らせてこれ見てと差し出した。

それは、カフェで連れと向かい合わせに座り話をしている様子を通りから撮った写真である。

「こっちの女は編集の人なの、この男性。多分この人が一条さんじゃないかなと思うんだ」

とても平安時代の人とは思えない慣れた手つきで拡大されたのは、男性の横顔。
――こ、この人は。

「この写真見て。あたしは確信したよ。この品位溢れる面差しが、よく似ていらっしゃる。間違いないね」

それはアップになった彼の顔だった。