陰陽師が活躍する歴史ファンタジーは、魑魅魍魎よりも人間のほうが怖いという独特の世界観が魅力であり、その一方、男性目線で書かれた恋愛小説は、切々と心に沁みてくる悲しい話が特徴的で、とにかく私は彼の新刊が出たら予約するほどの大ファンなのだ。

「こ、これ見てください」
思わず取り出したのは、先月買った彼の最新作の単行本。『この花、想えども遠く』

彼はクスクスと笑う。
「ありがとう。今度新刊が出る時は、真っ先にあなたに差しあげますよ」

「本当ですかっ!」

その時は是非サインを、いやこの本にサインをと言おうとした時、無情にもドアベルの音が響いた。
カランカラン。

「いらっしゃいませ」

すごすごと本をしまい込み。グラスを出しながら私の胸はまだ落ち着かなかった。

この人が一条定。

小説家一条定は謎多き人で、いっさい表に出ることはない。
賞を受賞した時も代理人がスピーチを読んでいた。ビジュアルがこれほど素敵ならば人気は増すばかりだろうに、人見知りなのだろうか?

それにしてもすごいことを知ってしまった。

一条定は暁も大ファンなのである。
暁に言いたいなぁ。でも言えないよなぁ? と悩みながらふと思った。
そういえば――。

彼の書く切ないラブストーリーは、どこか暁が話す一条帝とテイシさまの話と重なるところがある。

暁などは、彼は帝の生まれ変わりかもしれないとさえ言っていた。
最新作の内容も、愛しても、愛しても、自分の力ではどうすることもできない。運命に振り回される話。

最後はこんな感じで終わった。

『何度生まれ変わっても、僕は必ず君を見つけだす』

――あはは。まさか。
考え過ぎよ。