いやいや、深い意味はない。怪しい人ではなさそうだから、暇な時間に来てくださる常連さんになってもらえたらうれしいだけ。
そうよ、それだけよ。
こんな風に爽やかな感じの常連さんがいてくれたら、店の価値が上がりそうだ。
そんな自問自答を繰り返しながら、カップにコーヒーを注ぐ。
ちなみに今日の彼の服装は、濃紺のリネンのジャケットに中は白いTシャツ、下はスリムなベージュのパンツ。
特に目立たない出で立ちだけれど、残暑の厳しさなど吹き飛ばすくらいの涼やかさは、ちょっと普通じゃない。
「お待たせしました」
自分で飲もうと思っていれていたコーヒーだ。ほとんど待たせていないけれど決まり文句でにっこりと微笑み、そっとカップを差し出した。
そして残りコーヒーを自分のカップに注ぐ。
「なんという曲ですか?」
彼がふいにそう言った。
それが店に流れているCDのことだと気づくまでに、一瞬間があいた。
「あ、ああ、ごめんなさい曲名はわからなくて。これは祖父が残したCDで、曲名もなにも書いてなくて」
「そうですか、いい曲ですね」
「ジャズお好きなんですか?」
「ええ、たまに。でも、この店で聞くと何倍も心に響くような感じがします」
あ、また意味深な発言をした。
――もぉ。