朝食はこの店のモーニングと決めているし、職場がここから近いこともあってランチや夕食をとりに来たりもする。
もはや、彼女の肉体はこの店の料理で出来ていると言っても過言ではない。

カウンターに座るなり、暁は出した水を一気に飲み干した。
プハーとか言いながら空になったコップをテーブルに置いて、大きくため息をつく。

「あー、暑い。やだやだ。夏の昼間なんて、ろくなことがない」

「夏は夜ですか?」
「そ、時代は変われど、夏は夜に限るね」

いわずもがな、その発言は枕草子に出てくる、『春はあけぼの』に続く『夏は夜』からきている。

実は彼女、清少納言なのである。
冗談みたいな、本当の話だ。


暁との出会いは大学に入学し手間もない頃だった。

『あたし、清水暁。よろしくね』
隣に座った彼女が声をかけてきた。

『藤原さんってテイシいう名前なんだね』

『サダコだよ。定子と書いてサダコ』

『ふぅん』

とてもわかりやすい性格の彼女は、納得できない嫌な事があればストレートに怒り、楽しければ心から笑う。
好きも嫌いも明快だ。

ともすると場の空気を先読みして、思っていることを口にできない私には、そんな暁が羨ましくもありとても新鮮だった。