「手伝うよ」
ふいに、すぐ横で声がした。見ると、祐輔と聡太が濡れたタオルを持って立っている。
俺は少し身体をずらして、二人の入る隙間をつくった。
「………私も手伝う」
次は女子の声。橋口さんたちが浅井の机の周りにしゃがみこみ、飛び散った花瓶の欠片を拾い始めた。
それから、他の人たちも少しずつ集まってきて、手伝ってくれた。
なんと言えばいいのか分からないけど、とにかく嬉しくて、俺は思わず加納さんに目を向けた。彼女はゆったりと目を細め、口許を緩めている。
どくどくと脈打つ音が耳に響く。俺はさっと目を逸らして作業に戻った。
周りのみんなも黙々と片付けに集中している。
遠くで三島たちが不満気に言葉を交わしているのが聞こえたけれど、誰も気にしていなかった。
すべての処理が終わってみんなが席に戻ったとき、浅井が教室に入ってきた。
横目で観察していると、浅井は何も気づかない様子で普通に席についた。
それでいい、と思う。何も知らなくてもいいんだ。あんなにひどい扱いを受けたことなんて、知らないほうがいい。
でも、もし、また同じような目に遭うことがあったらーーそのときは、きっと今日みたいに、みんなが味方をしてくれるはずだ。俺だってそうだし、今までは見て見ぬ振りをしていたクラスメイトたちもそうだ。これからは、陰湿な嫌がらせを見過ごすやつなんて、きっといないはずだ。
それはーーー加納さんのおかげだ。
彼女の言葉が、みんなの目を覚ましたんだ。曇りのないあの言葉が。
俺は、席についた彼女のほうに目を向けた。
いつものようにきれいな横顔で、窓の外に視線を向けている。
その目は、まっすぐに空を見据えている。
なんて強くて、優しくて、純粋で、きれいな瞳だろう。目が離せない。
こんなに強くてまっすぐな人は、今まで会ったことがなかった。