「そういえばさ、〈高位存在(アルティオレム)〉さんだっけ。来てたよね」
「え? ああ……」

 [ワラスボ・ラボ]のスペースを訪れた参加者の中には、あの柔和な笑みをたたえたイケメンもやってきた。彼は、差し入れの栄養ドリンク数本とスマホのプリペイドカードを持って現れ、新刊を買っていった。

『北斎さん、あとでお話ありますから』

 彼は、人の多さに目を回す北斎にそう言った。

「なんかホクサンに話しあるって言ったけどなんだったの?」
「ああ、ちょっとな……」

 どことなくはぐらかすような感じで、北斎は言葉を濁した。

「それより、お()ェさんにも話が来てたろ、アレどうすんでぇ?」
「ああ、そうだね……」

 〈高位存在(アルティオレム)〉には一人の連れがいた。なんと『フォーティチュード・ジーニアス・オンライン』のプロデューサーだ。

『いま次回作を構想中でして、他の人にない絵を描ける方を探しています』

 仕事の話だった。しかも思ってもない有名所からの。とりあえず名詞を交換し、後日連絡を取り合う約束をした。

『今日までご協力いただいた、ささやかなお礼です』

 柔和なイケメンは藍佳にそう言い残して立ち去っていった。

「もちろん条件次第だけど……受けようと思ってるよ。このサークルのまたとないチャンスだもん!」
「ふぅん、そうか」

 北斎は顔をほんのり赤くしながら、新しい酒瓶に手を伸ばした。