見たことのない演出が始まった。魔法陣の回りをラテン語の文言が飛び交う。そこまではいつも通り。けどそれらの文字が虹色に輝き、その光が魔法陣全体を包み、さらには画面全体へと広がっていく。違う。通常のガシャ演出でも、SSR確定演出でもない。

「わっ!」

 あまりの眩しさに、思わず画面から顔をそむけた。それでもなお、視界に入り込んでくる光。尋常な光度じゃない。スマホからこんな明るい光が出るものなのか? まばゆい輝きは六畳の部屋全体を包み込んだ。藍佳は思わず両目を手で覆う。

「おおっと!!?」
「きゃあっ!?」

 身体がビクリと反応した。一人しかいないはずの部屋に、知らない男の声。スマホの中からじゃない。真っ白に染まったこの部屋の、どこか別の場所から声は聞こえた。

「なななな……何? 何なの??」

 指の隙間から、少しずつ光がやわらいでいくのがわかった。恐る恐る隙間を広げていく。すると……

「んおお……? おおっ!? すげぇ! 本当に五十の頃のオレだぁ!!」
「きゃあああああーーーー!!!!」

 謎の男が目の前にいた。藍佳はあらん限りの悲鳴を上げる。

「うわあっ!? 何でぇ、脅かすな!」
「だだだだ……誰? 誰なの……!?」

 歯と歯をガチガチ震わせながら、謎の男に問いかける。少しでも距離を取ろうと、腰を後ろへと動かして後ずさる。

「葛飾北斎、その人です。林田藍佳さん」

 今度は後ろから声。ぎくりとして反射的に腰の動きを止める。数秒のちに、恐る恐る首を後ろに回すと、そこには柔和そうな表情の若い男が立っていた。

「な、なんなのよぉ……」
「これは失礼しました。私、〈高位存在(アルティオレム)〉と申します」
「ア、アルティ……何?」

 聞き慣れない名前に思わず聞き返す。外国人?

「みなさまが言う所の、神様とか天使とか天上人とか、そういうモノだとお考え下さい。そして、こちらの方が……今申し上げました通り、葛飾北斎様。絵の勉強がしたいとのことでしたので2020年代に東京で絵を描いている数十万人の中からマッチングし、アナタをホームステイ先とさせていただきました」

 流れるように説明をしてくる、アルティ……何とかさん。でも……

「さっきから言ってること、1ミリもわかんないんですけど!!」