時計は既に正午を回っていた。床に転がるように寝ている聖矢は当分起きそうにない。
 今朝もいつも通り6:30のアラームで目が覚めた。けど、家に帰る気にはなれなかった。聖矢が起きてから2人で朝食をとり、午前中はそのままぼんやりとテレビを見ていた。

 芸能人の入籍を話題にする情報番組を見ながら、ふと昨日のランチタイムに考えていたことを思い出した。聖矢はどう考えてるだろう。今までそんな事を気にしたこともない。過度に干渉し合わないのがアタシたちの良いところ、とすら考えていた。
 こうして週末に会って、夜を共にし、たまにそのまま家で2人で過ごす。オタク趣味と両立可能な、ゆる~い関係に満足していた……はずだった。

『ねえ、アタシたちのこの先のことって考えたことある?』

 冷蔵庫に飲み物を取りにいった聖矢に尋ねる。できるだけ平静を保ちながら。テレビの中の話題とも繋がっている。不自然な切り出しじゃないはずだ。けど……



 チッ



 はっきり聞こえた。わざとなのか無意識なのかわからないが、確かに舌打ちの音だった。その後、数秒間の静寂。
 地雷踏んだ? 音がした方を振り向けない。すると背後から両腕が伸びてきて、藍佳の上半身を抑えるように抱き込んできた。

『そうだな、ゆくゆくはちゃんと考えなくちゃいけないね』

 妙に優しい声が、耳元で囁かれる。

『けど、いいじゃん、今はまだ』

 聖矢はそう言うと、藍佳の身体を横たえ、そこに覆いかぶさってきた。え? なんで? 今の話の流れで? このタイミングで、何故そういうことになるの? 訳がわからず、ゾッとする。昨夜あれだけ相手をしたのに、まだ足りないのか……?


 そして現在に至る。思ってた通りではある。聖矢は将来のことなんか考えていない。けどそれは自分だって同じだ。それでも……こんな関係でも時間を重ねていけば、いつかは腰を据えて考えるようになるのだろうか?