「ありがとうございましたー」

 スナック菓子と惣菜パン、それにジュース類を詰め込んだマイバックをもってコンビニを出る。北斎が来てから我が家のエンゲル係数は爆上がりしてる。江戸からやってきた男は、ジャンクフードが大好きだった。
 最近はウーバーの注文方法も覚えたらしく、藍佳が会社に行ってる間にちょくちょく頼んでいるようだ。

「しばらくは課金を控えれば何とかなるけど、いつまでもってワケにいかないよなぁ…」

 そもそも北斎はいつまでいるのだろう? この時代の絵画の技法を覚えるとは言ってるけど、何を持って「覚えた」とするのか? それまで居座るつもりなのか?

「こんなことなら、あの人に家賃要求しとくんだった……」

 北斎を置いていったあの柔和な表情のイケメンとは、それ以来会ってない。

 そうなると北斎本人に家賃を入れてもらおう。けどどうやって? 色んな意味であの人が、現代日本でまともな職につけるとは思えない。

「やっぱフリーランスのイラストレーター……かなぁ?」

 絵を描く以外の事はできなそうだし、やろうとも思わないだろう。だから道はそれしかない。藍佳の名義でどこかの紹介サイトに登録すれば仕事はできるはずだ。となると、あとは……

「おお! おお!! 鉄蔵さん、なかなかいいスジしてんじゃん!?」
「へっ! コツがつかめりゃこんなもんよ!」

 聞き覚えのある声に足が止まる。

「じゃあ、あとは外だな!」

 声の方を見ると、工事中の建物の中から北斎が出てきた。