「なぁ姉サン、前から気になってたんだけどよ」
「なに、どうしたの?」

 ある祝日の昼下がり、ウーバーで頼んだガパオライスを頬張りながら、北斎は尋ねた。

「そこの通りから見える馬鹿でっけぇの・ありゃ一体(いって)ェ何なんでぇ?」
「ああ、アレ?」

 藍佳の住む、本所両国には二つのランドマークがある。一つは言わずと知れた大相撲の聖地・両国国技館。そしてもう一つ、国技館の隣にある巨大な建造物が、北斎の言ってるものだろう。

「気になるなら、行ってみる?」
「いいね。面白そうじゃねえか!」
「それなら、まずシャワー浴びて! 最後にお風呂入ったのいつよ? それからコレに着替えて。あとマスクもつけてね」
「うへえ……」

 初めてこの部屋に現れた時に着ていたコスプレ衣装。流石にアレを常時身に付けられるのは嫌なので、藍佳は量販店でメンズの普段着を何着か買っていた。けど、このものぐさ変人絵師はそれを着たがらず、ほとんど毎日肌着で過ごしていた。一昨日パンいちで外に出たので烈火の如く叱りつけたばかりだ。

「ったく、仕方ねえな」
「ちょっここで脱がないで! ちゃんと脱衣所行ってよ」
「なんでぇ生娘じゃあるめぇし、かまととぶりやがって!」