出番を終えると、みんなが私たちの所に来てくれた。

 奏と千沙は、一番先に駆けつけて、よく調べたね、堂々としていたよ、と讃えてくれた。二人とも、私よりずっとたくさんの観客の前で舞台に立ち、見事な演技を披露していたのに、まるで共演者みたいに肩を抱いてくれたのが嬉しかった。

 家族が思いのほか感激していたのには驚いた。

たかが学園祭の研究発表でどうして涙を浮かべているのだろう、と思ったが…大病を乗り越えた娘が一年遅れで高校生になり、当たり前に学校生活を送っているのを目にしたのだから無理もない。観客の前で一人前の顔して喋ったのだから、胸にためていたものが溢れたのだろう。感極まって目がしらを抑えた父も、私の手を取って何度も頷いた祖母も、意味深な仕草でぐりぐりと肘を突き立ててきた琴も、特別な思いで足を運んでくれたに違いない。

そこに思い至ったら、私も涙を抑えられなくなった。まるで、長い間縛られていたものから解放されたみたいに体が軽くなった。本当に、ただの研究発表の場なのに、四人の間に温かく湿った空気を作っていた。

 凪さんは、テンドウに一声かけ、私に向けて目礼すると、そのまま図書室から出ていってしまった。

どうして、一緒に行かなくていいの?

テンドウの袖を引っ張って合図したが、彼は、いいんだ、と言う顔でうなずいた。そして、私の家族の所に来て、一緒に研究してたくさん助けてもらったこと、川越の家を訪れた際にお世話になったことなどなど、ちゃらんぽらんな天道くんとは思えない慎ましい態度で、父や祖母に挨拶してくれた。

 ちなみに、この時の行動一つで、我が家でのテンドウ株は最高ランクに格付けされ、不動の地位を獲得した。何事にも厳しい祖母まで、彼が持ち合わせているものと将来の伸びしろを高く買っていたから、つくづく好かれる人柄なんだと思う。

 それから最終組のプレゼンがあって、先生方の審査が行われた後に結果発表があった。

 テンドウと私は、八組参加した中で準優勝した。果たしてどんな結末になるか、およそ見えなかった所から始めたにしては、とても満足できる結果だ。いや、テンドウも私もこの三か月の間に変わったから、ここに辿りつくことができたのだと思う。二人で組んでなかったら、準優勝どころか発表することすらできなかったに違いない。

 二人揃って登壇し、たくさんの拍手を浴びた私は、ふわふわと空を飛んでいる気分で掌サイズのトロフィーを受け取った。

壇上から降りると不意に、もう終わりだ、明日から天道くんとリンちゃんに戻ってしまう…そう思いながら大きな体を振り返っていた。

 いろいろとあったけど、テンドウと組んでよかった。ありがとう…。

 そこにいてくれるのがとても心地いい、とびきり素敵な顎の輪郭を見上げているうち、彼が手を差し出し、私の手を取って言った。

「リンのおかげで準優勝できた」

「うん…」

「一緒にやってくれてありがとう。どんなに感謝してもしきれない…」

 何かを手に入れた、自信に満ち溢れた表情で私を見つめてくる。と思ったら、じゃあな、と繋いだ手をあっさり放して行ってしまう。

まるで春のそよ風みたいな彼の体温をもっと感じていたかったのに。長い間求めていたものを見つけた気がしたのに、それが瞬く間に掌から零れ落ちた気がして、私はいつまでも、その場から動くことができなかった。