結局、テンドウと二人で私の家に行き、二人きりで例のDVDを観ることになった。

事前に段取りしておいたとおり、彼を私の部屋でなく十五畳のリビングに通し、六十インチの大画面液晶テレビに持ってきたDVDをセットして、祖母が知り合いの老舗料亭から取り寄せた特製松花堂弁当を広げてゆったりと鑑賞する。間違っても、映画の進行とともに妙な雰囲気にならないよう革製のソファの端と端に離れて座った。

 テンドウは、リビングに入ったところから至れり尽くせりの歓待に素直に恐縮し、大人しくソファの端に座った。特製松花堂弁当を開くと目を見張って、

「これ、注文したのと間違ってない?」

「どうして?」

「どう見ても、高校生の昼飯に見えないけど…」

 花模様の箱の中に収められた煮物やにこごり、ぶりの西京焼き、カニ肉のあんかけといった優雅な品ぞろえに見事に固まっている。

 それはそうだろう。まるで結婚の許しをもらいに来たフィアンセにするようなセッティングなのだから、警戒して当然だ。

 私は、主導権を取り戻した気分で事の次第を説明した。

「大事なお客様なんだからって、祖母が用意してくれたんだ。大丈夫って言ったんたけど。そういう所、絶対に引かない人だから…」

「それはどうも…」

「ごめんね。気にしないで食べて」

 母の代わりに私を育てた商家の末裔の気風が、ひょんなことから訪れた国立のお坊ちゃんにも伝わる。ちょっとややこしい家に来てしまった、と後悔したに違いない。

 母の不在、強烈な個性の祖母、正反対の性格の妹、強いキャラばかり揃った林田家は、やはり特殊な家庭だ。今回のように外の人が関わると、自分がどんな環境で暮らしているのかよく分かる。

 でも今度ばかりは、そんな特殊な部分が私を助けてくれるかもしれない。何故なら、これだけ厚くもてなされたら、いつもお気楽な天道くんも居心地が悪くなり、DVDに集中できないだろうから。

それは今日の主旨から外れるかもしれないが…主人公とヒロインの出会い(実は再会)から物語が始まって、二人が仲良くなり、付き合っていくと、どうしても恋愛ものとして避けられないその手のシーンがやってくる。小説ならどんな場所でも自分一人で読むことができたけれど、こんな私的空間で、付き合ってもいない男子と二人きりで観るとなれば別だ。どうしたって妙な空気になるだろう。彼の隣に座ってその時間を耐える自信が私にはない。

本来なら琴も同席している筈なのに、失踪された現状では一番の難題だった。