「う……うっ……」
「………」

“――……、――――!……”

二人してソファ-に並んで座って、互いに寄りあいながら恋愛映画のDVD鑑賞会をしていた。

“―……、――――――! ……――”

彼女は、今泣いている。後半の殆どを涙目でみていた。
……寧ろ、泣きじゃくっているといってもいいほどだ。
それに対し彼の方はというと、移り変わっていくテレビ画面と泣きながらそれを見つめている彼女の方とを、交互にみていた。
おそらくは、二時間半の映画中、彼女を見ている時間のほうが長かったと思った。
だから映画の内容なんてものはあまり覚えていない。
ただ、よくあるパターンの映画だということは十分に理解していた。

…………*

「将ちゃん!」
「んぁ?」
「映画見てなかったでしょ!!」
「………」

映画も終わり、彼女も落ち着いたころ。
彼女の開口一言めがコレ。

「どうなの!?」

正直に見てませんでした、といえばもう一度流されるに決まっている。
なかなか返事を返すことのできない彼に、彼女は今にも押し倒さんばかりにズイズイと身を寄せてくる。
彼は諦めたのかそれとも呆れたのか、ため息をひとつついてから、

「……どうしてそう思うわけ?」

と彼女に逆に問いかけた。
一緒にいることが大切なんじゃねぇ?と内心では思いながら。

「だって、将ちゃん泣いてないじゃん」
「はぁ?」
「今ので泣かないとか! 鬼だよ、悪魔だよ! ドSだよ!」

思いつく限りを並べるように、彼女はそういいきった。

「なっ、……最後のは関係ねぇだろ。それに、俺が泣いたらお前笑うじゃん」
「キー!! なんで逆切れなわけっ!?」

意味のない、こんな会話さえも。
大切に思えてしまうのに。
それを無駄にするのが上手なお姫様。

「っせぇ! おまえうっせー!!」
「なー!? さっきからお前お前って! 私には“しおり”って名前がちゃんとあるんですけどー!!」

彼女の、勢いに身を任せた。
ゆっくりと。
そうだ、スローモーションっていうやつだ。
勢いだけで彼は、彼女に押し倒されてしまった。

「……」
「……」

暫しの沈黙の後、先に声を出したのは下にいた彼だった。

「……わーぉ。“しおり”チャンってば。珍しく積極的じゃないですか」

彼は彼女をからかうつもりで、悪戯っぽく向かい合っている彼女にいった。
眼は、離さない。
じっと、彼女の瞳を捕らえたまま。
ふわり、と視界をさえぎろうとした髪を、彼はすっと静かに彼女の耳にかけた。
無言の彼女の頬が、見る見るうちに赤く染まっていく。

「ひぁっ?」

彼はいつの間にか下からでて彼女をひょいと軽く抱き上げて、そっと横に座らせた。

「はい、おしまい」
「……なっ?」
「確かにね。俺映画見てなかったけど」

彼女は、「やっぱり」と小さくむくれた。

「しおりの事見てたんだよ」

彼は優しく彼女に言った。
もう一度、今度は悪戯な気持ちはまったくない表情で。


大切な、ことなのかもしれない。
キミと観た、よくあるB級恋愛ものの映画も、
キミを愛おしく思える、いや。
キミの愛おしさにもっと気付くための、大切な時間なのかもしれない。


(からかい甲斐があるのです!)
.07/11/17