「私は一方的でも一人で話してるじゃん。だから、穏やかな感じの子とどんな風に話してるのか気になったの。突然ごめん、気にしないで」
「口数増えるわけじゃないし、もっと情報量少ない会話」
「友達との会話に情報量出してくる人、初めてよ」


相変わらず目じりを下げて柔らかく笑う顔を眺めながら、眞田の話に相槌をうっていく。

今日は朝から、どこか笑顔に元気がない気がしていた。何も言わないから、気のせいだと思っていたけど、そうじゃないのかもしれない。


「なんか、あった」
「え?」
「今日、元気ないんじゃない」
「なにそれ、井口エスパーすぎる」


おまえ限定だと、いつか言えるだろうか。

眞田じゃないと発揮できない特技ができてしまった。責任取ってよ。


「昨日、偶然話せる機会があったんだけど、うまく話せなくて。気まずい感じになっちゃった」
「バトミントン部?」
「そう。って、覚え方~」


なんかもう、わかんなくなっちゃった、とため息をつく姿が痛々しい。そんな顔してほしくて話を聞いてたわけじゃない。


なんだかんだ言いながら、楽しそうにため息をつく姿が好きだった。


「俺のこと考えて、ため息ついてよ」
「……え?」
「そんなヤツ忘れて、俺のこと想ってため息ついて。俺のこと好きになって」


すっかり固まった眞田の手から本をとって棚に戻す。困らせるとわかってたから、言うつもりじゃなかったんだけど。

ついでに眞田の頭をぐしゃぐしゃに撫でて、再起動しろと茶化してしまう。


「悪い。まだ好きなんだろ、これまで通りでいいから。な?」
「……わかった」


お互い、これまで通りなんてできないことはわかってる。俺が悪い。居心地のいい空間を壊してしまった。


理性じゃどうしようもない感情は、手に余る。

友達になってといったあの子のように、前向きな現状維持じゃなくて、完全に誤魔化す現状維持。あの子を見習うには、色々足りてなさすぎる。


やっぱり強さが眩しくて、かっこいいなと再認識した。