「井口、呼ばれてる」


昼休み、弁当を食べ終えてだべっていると、教室の後ろのドアから声がかかる。視線を向けると、顔はみたことのある女子が小さく頭を下げた。


「待たせて悪い」
「あの、ちょっと移動しても大丈夫?」
「わかった」


身体の前で両手をぎゅっと握る姿に、ああと察するものがあった。人気のない別棟の廊下に移動して足を止める。

はらりと落ちた髪の毛を耳にかけて、細く息を吐き出した後、しっかりと目を合わせたのが印象的だった。


「もともと存在は知ってたんだけど、合同体育でよく見るようになって気づいたら目で追ってて、好きになっていました。私と、お友達になってください」
「……友達で、いいの」
「井口くん、私のこと知らないよね?今言ってもダメだと思うから、まずいつでも話しかけられるようになりたいなって」


友達からだけど、恋愛対象として意識してくれたらうれしいですと、いたずらっぽく笑う姿に驚く。どちらかと言えばおとなしそうな雰囲気で、その強さと真っすぐさが眩しい。


「なんか、かっこいいな。これからよろしく」
「ふふ、かわいいって思ってもらえるように、頑張る。今日は話を聞いてくれてありがとう。また話しかけに行くね」


戻ろっか、と元来た道を歩きながら、自己紹介がてら雑談をする。さらりと髪が揺れて、穏やかに笑うのが女の子だなと感じた。


無意識のうちに比べている自分に気づいて、重症だと眉をひそめる。明らかに告白だろう呼び出しを、眞田はどう思っただろうか。


今日は火曜。軽率にいじられたら軽くへこみそうで、すでに憂鬱な自分がいる。