「男子のなかで楽しそうに笑ってるところが素敵でね。女子が器具運んでるのに気づいてさりげなく手助けしたり、学食で美味しそうにごはん食べてたり。たくさん話してみたいんだあ」
私のこと認識してくれてるかな、同じクラスだったらよかったのにな、と悩みはつきないらしい。
知ってるよ、あいつがいいヤツなことくらい。去年同じクラスだったし。でもそんなことは教えてやらないけど。
もしふたりが付き合ったとして、眞田のことを大事にするのが容易に想像できる。だからこそ、素直に応援できない。俺が大事にしたいし、俺に笑いかけてほしい。そう思うから。
「へえ」
「興味なさそうだなあ。でもなんだかんだ聞いてくれるから、井口は優しい」
「こんなんでいいなんて、おまえちょろい」
「ええ、そんなことないよ。井口の相槌は愛があるからね」
「は、どこらへんに」
眞田の何気ない言葉に脳が一時停止する。不自然に止まった手は、問題を考えてるからだという風に見えるだろうか。体裁ばかり繕うのがうまくなる。
無意識のうちに感情駄々洩れとか、俺は自分を許せなくなりそうなんだけど。なに、は?
「絶対無視しないし、悲しいことには絶対言葉を返してくれる。私がため込まないように、促してくれてる感じがする」
あ、否定の言葉はいりません。プラス思考で生きるって決めてるから!とおどけて笑う眞田に、あっそとわざとらしく呆れたように返しておく。
……ぜんぶバレていて、動揺を悟られないようにすることで必死だ。素っ裸にされたような気分。自分がダサすぎてしんどい。
「こんな風に、彼とも気負わずに話したいのにな……」
緊張してうまく話せないんだと切なく笑う顔が見たいわけじゃない。でも、その顔を向けてほしいとも思う。
今日も眞田のため息で、放課後の図書室は満たされている。