「……バトミントン部は?」
「井口がああやって言ってくれた前日にね、彼女できたって聞いて。
彼女が心配するからあんまり話せないやって言われた。彼女ができたことよりも、それでもう話さなくていいって関係を断つんだなあと思って、価値観の違いを感じた。
井口ならそんなことしないのにって、一番に思った」


俺を想ってと言うより前に、俺のことを考えてくれていた。その事実がどれほど嬉しいか、眞田はわからないんだろう。

人生のボーナスタイムが、降ってわいてきた気分だ。都合のいい夢をみてるんじゃないかと疑ってしまう。


「やっぱり私はこれまで通りにはできない。大切にしたいと思っていて、井口のこと好きになった。井口のことばっかり考えてる」
「最近のため息は、俺のせい?」
「井口のこと考えて、ため息ついてる」


責任取って、と制服の袖を引っ張られて、至近距離で目を合わせる。俺のことしか映ってないない瞳を愛しいと思った。


「俺は、眞田が好きで、他の誰でもなく俺がおまえを大事にしたい」
「うん」
「俺と、付き合って」
「……はい」


袖を掴む手を引いて、そっと抱きしめる。腕の中ですっぽり収まる身体の小ささと柔らかさを知って、大切にしたいと、また強く思った。


俺、おまえが可愛くて仕方がないんだよ。知らないだろうけど。


「……やっと、ちゃんと話せた」
「俺のセリフですけど」
「ごめんって。ドキドキしてたの!」


井口の話は?と聞かれて、もう終わったと答えれば嬉しそうに笑うから、思わず頬に手を伸ばしていた。


ずっと触れたかったそれは想像以上に柔らかくて、そっと親指の腹で撫でる。くすぐったそうに瞑った目じりも撫でて、そっとキスをした。