誰もいない図書室と、グラウンドから聞こえてくる運動部の声。この空間を好きになったのは、後期の委員会に入ってからのことだ。


毎週火曜日の図書委員の仕事は、ただカウンターに座っていつまでもこない利用者を待つことと、司書に頼まれる雑用をするくらい。暇な間は課題を進めたり本を読んだり、もうひとりの委員と雑談したり。

おまえが図書委員?似合わないと何度言われたか。自分でもそう思う。


「あれ、井口来るの早いね!」
「おまえが遅いの」
「ごめん~、話が盛り上がっちゃって」


そんなこと知ってると言ったら、どう思うだろうか。今日も何でもない顔をして、座ればと隣の席に目を向けた。


「どうせ今日も暇」
「火曜日、絶妙にみんな図書室来ないよねえ。返却は月曜日、貸出は金曜日が多いもん」
「まだ一週間始まったばっかの火曜に本借りるやつ、少ないわな」


まあのんびりやりましょうと目じりを下げて笑う顔を横目に見る。笑うと目が三日月になって、ふっくらした頬がまるくなる。柔らかそうなそれに、触れてみたいと思う。


書きかけの数式を消しゴムで消しながら、俺が思ってることなんて微塵も想像してないんだろうと小さく息を吐いた。

消しカスを集めてくっつけて、一つにする。俺のこの小さく溢れてくる感情も一塊にして、捨てられたらいいのに。


「ねえ井口、ちゃんと聞いてる~?」
「はいはい」


眞田が隣に座ってから、何回ため息をついただろうか。毎週火曜の図書室は、恋愛相談タイムだとでも思っているらしい。

毎週毎週、好きな人を思ってため息をつく姿を眺めている。毎週火曜に体育があるのが悪い。


「で?陸上部のそいつは彼女いるんだっけ」
「バトミントン部!彼女いないの!なんにも聞いてないじゃん」


もう、とふくれっ面をする眞田の方に顔を向けて、聞く姿勢を示してやる。

聞いてるよ。バトミントン部で彼女がいなくて、合同体育で今、一緒なのがうれしいんだろ。ちゃんと聞いてる。


今彼女欲しいのかなあと、自称恋する乙女はため息をつく。