おばあさんは杖を手に取って、ふらつきながら立ち上がった。

前のめりに転びそうになるから、つい戸を開けて手を伸ばすけれど、触れる前に体勢を立て直すと、こちらを振り向いて睨め付ける。


「匿ったってろくなことにならんよ」

「……うん」

「わかっとるなら勝手にしいや」


おばあさんが何に腹を立てているのかはいまいちわからない。

拓磨を探すこの騒動が耳障りなら、いますぐ人を呼べばいい。

この家のなかに拓磨がいると言ってのけたとき、はったりにしては迷いのない口調だった。


おばあさんには確信がある。

だから、迷わずにここに来たのだろう。

理由を問えば拓磨を隠していることがバレてしまう。


たとえ、もう見透かされているとしても。

わたしは、拓磨を隠し通したい。


知らんけんね、と言い残して、おばあさんはよろよろと帰っていった。

屋根裏部屋に戻ると、拓磨は悠長に寝そべったまま、ぼんやりとしていた。


「声、きこえた。升野のばあさんだろ」

「話してたこともきこえた?」

「いや、ぼそぼそ喋ってたからわからなかった。あのばあさん、妙に勘が冴えてるからおれがここにいるって気付いてたんじゃないか」

「うん。気付いてた。それに、拓磨のお父さんすごく怒ってるみたい」

「だろうなあ。まあ、父さんが怒りっぽいのはいつものことだし、人を巻き込むか内輪で済ませるかの差だからな、あんまり心配するな」


心配するとしたら拓磨ではなくてわたしと、今夜不在のじいちゃんとばあちゃんのことだ。

さすがに遠方に出かけている人にまで拓磨がいなくなったと連絡はしていないだろうけれど、帰宅早々あらびっくり孫がとんでもないことをしでかしたなんて、親不孝にも程がある。

両親がわたしをここに預けたきり、じいちゃんばあちゃんはこれ以上ないほど可愛がってくれている。

そんなじいちゃんばあちゃんのことを思うと胃がキリキリと痛むし、申し訳なさでいますぐどこかに駆け出したい。

どうせなら拓磨の手を引いて駆けたいものだけれど、もちろんそんなことはできるはずもなかった。