頭を預けるのは忍びなくて、頭頂部を押し付けるようにすると、拓磨は強引に腕を滑り込ませてきた。
首の下に腕が収まると、満足気に笑う。
無邪気な笑みもどこか艶が滲んでいて、至近距離で見ていることに耐えきれない。
瞼をぎゅっと閉じて、横髪が目元にかかるように身を捩ると、拓磨の指先がそっと髪を避けて耳にかけた。
「さっきのつづき」
「家のこと?」
「そう。仁美は、かわいそうとも言ってたな」
「拓磨は家から出たくないの」
かわいそうだ。拓磨は、かわいそう。
町中が黙認の幽閉、というと語弊があるけれど、少なくともあの家での暮らしに拓磨の意思も同意もない。割り込むことを許されていない。
「父さんは心配性なだけだよ」
「度が過ぎてる」
「立派な人になるには、父さん直々の教育が効くんだって。自分もそうだったからって、疑わない。古い考えって厄介だな。取り憑かれているみたいだ」
突然饒舌になる拓磨を、薄らと開けた瞳で見つめると、こつりと額をぶつけられた。
取り憑かれているようだと、最後は消え入るような声で言うから、拓磨こそもう何かを纏っているように思えてしまう。
まだ昔の拓磨の面影を残していると、然とこの目に焼き付けたくて、額を擦りながら真っ向から見つめ合う。
拓磨と最後に登校を共にしたのは小学四年生のころだ。
五年生に上がると拓磨は学校どころか町をうろつくこともなくなった。
新年の挨拶のときに会うことはあるけれど、伸ばした手が触れるような距離ではなかった。
こうして、いま、拓磨と同じ布団にいて、引っ付き合っていることが信じられない。
家を出て角をふたつ過ぎた自動販売機に飲み物を買いに行ったとき、ふらりと向かいから歩いてくる拓磨を見つけたときも、夢か幻覚を疑った。