「拓磨ちゃんが夜中に抜け出しよることは、知っとったんか?」

「知らなかったよ」

「あの子はよう夜の町に繰り出しよる。町会長が血眼になって探しだすと手が付けられんようになるが、見つからんうちは誰も告げ口はせんって決めとんのや」

「それって、どこの家の人?」

「ほとんどみんなや。役員の家のもんも町会長を酔いつぶれさしたり、悪いことしとん」


つまり、拓磨の脱走癖は町の人たちのほとんどが容認していて、見て見ぬフリをしていたらしい。

陰で大勢が暗躍していたことも知らず、いい気になっていたあの日の自分が恥ずかしい。

後悔はひとつもないけれど、わたしが知らないままでいれば、もしくはもっとはやく真相を知っていれば、少なくとも拓磨が大目玉を食らうことはなかった。

家に帰った拓磨は三日三晩説教三昧だったときいた。

大っぴらになったのなら、とお年寄りや役員が掛け合って、少しは行動の制限も緩まったという。

升野のおばあさんも持ち前の底意地の悪さでちょっと町会長を脅かしたとかなんとか。

本人にそれをきいてみたら、口利きが上手いと言ってくれと、本気で怒った顔をしていたから、恐ろしくてそれ以上は言及していない。


「高校くらい出してやりゃいいもんをな」

「え? 高校は通ってるってきいたけど……」

「仁美ちゃんと同じとこに通っとらんやろ」

「うちの学校じゃないよ。全日制じゃないところ」

「なんな、ゼンニチセイっちゃ」


そこから説明しなきゃわからないというところが、うちのじいちゃんばあちゃんを相手にするときと同じ。

拓磨が通っているのは通信制だけれど、定時制の説明も掻い摘んで伝えようとしたら、長いからもういいって止められた。