「わたしに、ぜんぶ説明させて」
「却下」
「何でもって言ったよね?」
「でも、それは却下」
譲る気が全くない人の声って、なんとなくわかる。
わたしも同じ声のトーンを意識して食い下がってみたけれど、拓磨が首を縦に振ることはなかった。
「お父さんに、嘘は吐かないで」
「わかった」
今度はあっさりと頷いて、拓磨はブランケットを捲り上げたかと思うとわたしの目線と同じ深さまで潜り込んできた。
じゃれつくように頬を摩られると、くすぐったさと同時に奥歯が痺れるほどの切なさが込み上げる。
一瞬、引き出せたはずの拓磨の本音は、もう掬う手が届かないほど深くに沈んでしまった。
逃げたい、と。
それが本心だったのなら、いつどこで、わたしはそれを取り逃してしまったのだろう。
かわいそうだといったことも、籠の中の鳥と呼んだことも、撤回したい。
舌に乗ってくちびるから零れた声は、言葉は、どうしたって取り戻せないのに。
だから、慎重に発するべきだと知っているのに。
「拓磨」
「うん?」
「夜が明ける前に、一緒に遠くへ行こう」
夜明けがすぐそこにあるのか、まだいくつもの山の向こうにいるのか、わからない。
そう遠くはない夜明けに向けていますぐ支度をすれば、きっとまだ間に合う。
頬を撫でていた拓磨の手がわたしの目縁をなぞる。
他人に触れられても鳥肌ひとつ立てず、平気でいられる自分に驚いた。
窓際で足の上に顎を置かれていたときも、腕を掴まれても、額を合わせていても、いま、くちびるが触れそうでも。
不思議と、気持ち悪くない。
わたしも拓磨に触れたいと、そう求めているからなのだと気付くよりもはやく、くちびるに熱が重なっていた。