先輩に説明している暇はない。一刻も早くこの場から立ち去らなくちゃいけない。けっして、振り返ることはせずに。

 商店街から横道にずれて、大通り沿いに出ると、来たときは葉っぱのない木々が立っているだけだったのにイルミネーションが輝いていた。

「江里乃ちゃん? どうかした?」
「え、あ、すみません」

 振り返り、謝りながら先輩の背後に彼女がいないことを確認し、安堵のため息をつく。当たり前だ。彼女がわざわざ私を追いかけてくるようなことをするはずがない。私と同じくらい、もしかしたらそれ以上に、会いたくなかったと思っているだろう。

 すみません、と先輩に頭を下げて、ゆっくりと足を踏み出した。

 駅に続く道は、まるでクリスマスみたいに光が放たれている。通りすがりの人たちにとって当たり前の行動なのか、誰も木々を見上げることはない。

 ひゅうっと空気を切り裂くような風が私たちのあいだを通り抜ける。反射的に体に力を込めて小さくする。先輩も同じだったのか、つないだ手に力が込められる。

 ひとりじゃなくて、よかった。

「……誰か、いた?」

 なんて返事をしようかと考えたものの、勘がいい先輩をごまかす方法が見当たらず「そうですね」と力なく答える。私の反応がおかしかったことに自覚がある。

「中学生のときの、同級生です」

 一時期は、親友と呼べるほど四六時中一緒にいたのに、今は同級生という間柄でしかない。そう説明するしかなくなった関係に、自嘲気味な笑みがこぼれる。

「同じバレー部だったんですけど……ちょっと、意見の食い違いがあって」

 そこから先の説明を、どうすればいいかわからず口ごもる。

 彼女はバレー部の、副キャプテンでエースアタッカーだった。私はセッターで、私たちは毎日、コンビのように練習をしていた。

 身長が高かったからか大人っぽい印象があるけれど、話すととても気さくで、面倒くさがりで、大雑把で、私はそんな彼女を仕方ないなと言いながら気にかけていた。忘れ物をしたとき、宿題を忘れたとき、掃除をさぼって先生に怒られていたとき、私にいつも「助けて」と抱きついてきて、私はいつも「仕方ないな」と彼女をフォローしていた。

 前向きなことばかりを口にする子だった。

「大丈夫だよ」「勝てるよ」「いけるよ」

 それが彼女の口癖だ。運動神経がいいこともあり、なんでもスムーズにできるからか、あまり練習するのが好きではなく、そんな彼女に、私はいつも「そんなことじゃだめだよ」「もっと精度を上げないと」「負けたらくやしいでしょ」「もっとがんばろうよ」と言っていた。彼女がサボると後輩も手を抜いてしまうようになり、キャプテンになってからはかなり厳しくしていたと思う。