フィンセント・ヴァン・ゴッホ──通称セントは、オーヴェル=シュル=オワーズにいた。

「うん?」

昼下がり、気分転換に僕が散歩をしていると、目の前にうつ伏せになって倒れている男を見つけた。

「おい、きみ大丈夫か」

声をかけながら、僕は男が死んでいるのではないだろうかと、恐る恐るじりじりと近づいて男の肩を数度ゆすって仰向けにする。

「おわぁっ⁉︎」

僕は男の顔を見てのけぞり、尻もちを着いた。驚いた自分の声とともに、男の目が開かれる。

「あれ?」

ますます僕は目を大きく見開く。それもそのはず、男の顔は自分と同じ顔をしており、瞳の色も自分と同様、碧眼であったのだから。世の中には同じ顔が三人もいるというが、本当だったのだなと、まじまじとその顔を見た。

僕らは石のように暫く固まった。先に動いたのは男の方。男は僕の両手をがしりと勢いよく掴み、きらきらとした眼差しで言った。

「わたしはハンス・ローガン・エバンズと申します! 貴方をずっとお慕いしておりました! フィンセント・ヴァン・ゴッホ様!」

ハンスと名乗るこの人物を僕はおかしな男だと思った。それは、面白いという良い意味で。


"ずっとお慕いしておりました"


僕は自分が特別慕われるような者ではないと考えている。客観的視点からしてもその評価は正しいといえるだろう。たいして有名でもなく、ましてや噂をされるような目立った存在ではないのだから。