絵の具を使わずともパソコンとペンタブレットというものを操ることで、絵が描けるということを知り、僕はイラストレーターとしてデビューしようと意気込んでいたのだが。

士郎(シロー)……これは、どのように操作するのだろうか」

「うむ……」

早々に挫折した。

絵を描くためには、沢山の線を繋がなくてはならないし、ソフト?とやらの設定をして、色を変更するときにはあちこちボタンを押してから絵を描かなくてはならない。元々、機械操作に疎く、更に僕からして未来の物で馴染みのないものだからさっぱりわからない。

士郎(シロー)もはじめ、面白そうだと線を繋いだり設定をするのに奮闘していたのだが、彼も機械操作に疎いようで、結局、僕たちは諦めることになった。

どうやら僕たちは、筆から卒業することはできないようだ。だが、パソコンの画面は見ているとちかちかして目が疲れ、創作時間が短くなってしまうので、それでいいと思う。

士郎(シロー)と同居して、二年が経過しようとしていた時、士郎(シロー)の大きな屋敷の一室を保管庫として絵を入れていたのだが、そろそろ溢れてしまいそうになっていた。どうしたものか、保管していてもこれらをどうこうするつもりはないし、かといって捨てるのはもったいない。暫く、唸りながら考えているとあることを思いついたので、士郎(シロー)に聞いてみることにした。

「いいんじゃないか? 出してみようか、コンクール」と、彼から許可をもらったので、コンクールに出してみることにした。


ある時、ジリリリリリ……と滅多に鳴ることのない士郎(シロー)の携帯電話が音を出し、彼は電話に出て暫く話し込んでいた。会話を終えた彼は僕を見ると、勢いよく飛びつき抱きしめてきた。

「流石だな、セント。最優秀賞、おめでとう!」

「まさか、さっきの電話は、コンクールの⁉︎」

「あぁ! 授賞式は来週の水曜日で、テレビの撮影や記者がいるそうだ。名前の公表はふせてもいいし、匿名でもいいそうだけど、どうする」

「そうだな、名前か───」



────当日。

「最優秀賞、おめでとうございます! お名前を伺っても宜しいでしょうか?」と、記者の人が僕にマイクを向けてくる。




「僕は、ジャック・ローガン・ドイルと申します」




ジャック(名無し)、ハンス・ローガン・エバンズ、アーサー・コナン・ドイルに感謝を──。


こうして、僕は未来で芸術家ジャック・ローガン・ドイルというペンネームで名を馳せることになるのだった。