午前八時頃、セントを朝食にでも誘おうかとオーベルジュ・ラブーの三階を訪れた。しかし、いくらノックをしても返事がないので、外出中だろうかと思いながらドアノブをまわしてみれば、鍵がかかっていなかった。無用心だなと思いつつ部屋へと入ってみれば、やはり彼はいなかった。

テーブルの上に一枚の紙がぽつんと置かれており、気になって近づいて見てみれば、便箋だった。そのはじまりに"親愛なるアーサーとハンスへ"と書かれていたので、ハンスと一緒に読むことにした。


"親愛なるアーサーとハンスへ
この手紙を読んでいるということは、僕はもうここにはいないのだろう。別れの挨拶もなく、消えてしまったことを申し訳なく思う。昨夜、きみたちの言ったとおりにして眠ってみれば、夢に女神様がおいでくださった。そして、代償が寿命であること、未来へ行く場合には過去へは二度と戻ることはできないということを知った。しかし、僕には一切の迷いはない。僕のことで色々振り回してしまって、すまない。こんな僕のために必死になってくれて有難う。頼もしい友人を得たことを、心の底から嬉しく思う。さようなら。きみたちの幸せを心から願う。
     フィンセント・ヴァン・ゴッホより"


「行ってしまわれたんですね……」

「あぁ……」

私たちは突然の別れに年甲斐もなく涙をぼろぼろと流してしまった。永遠の別れは悲しい。しかし、セントは死んでしまったわけではない。彼が未来で幸せになれるよう、止まらぬ涙を何度も何度もハンカチで拭いながら、私たちは彼の、セントの幸せを願ったのだった。