その日の夜、僕は士郎(シロー)がオーストリア東部のウィーンで描いていたときの絵を抱きしめ、眠った。

「ここは……」

先ほどまでベッドで眠っていたはずなのに、僕はいつのまにか士郎(シロー)の絵を片手にひまわり畑に立っていた。

「こんにちは」

背後から声がしたので振り返ってみれば、光を纏う神々しい女性がそこにいた。

「驚かせてしまい、大変申し訳ございません。私は人々から神と呼ばれる存在でございます」

神と名乗る女性は恭しく僕に礼をした。

「貴方様が士郎(シロー)時間跳躍(タイムリープ)の力を授けた神様でしょうか?」

「いかにも」

「僕にもその力を授けて頂くことは出来ないでしょうか」

「代償は"寿命"ですよ? 力に寿命を奪われた結果、残りの寿命が一週間になってしまうこともあるのですよ。それに加え、過去から未来へ行く場合、膨大な量の力を消費するため、二度と過去へと戻って来ることはできません。それでも、力がほしいですか」

「はい、どうか僕に力をください。女神様」

一切の迷いはなく、深く腰を折り曲げて女神様に願った。

「良いでしょう」

腰を上げて女神様を見れば、優しく微笑んでくださった。

「貴方の覚悟と決断、しかと受け取りました。目覚めた時にはすでに力が宿っていることでしょう。心の準備ができ次第、強く願いなさい」

瞬間、真っ白で眩い光にあたり一帯が包まれ、僕は目をつぶった。再び目を開くと、いつもの天井がそこにあり、僕はベッドに横たわっていた。窓から外を覗いてみれば、まだ朝日が昇っているところで、僕は重い腰を上げて便箋を一枚用意し、アーサーとハンスへの手紙を書いた。

そして、僕は士郎(シロー)の絵を抱きしめ、目をぎゅっとつぶって強く願った。



"僕は士郎(シロー)に会いたい"と。