筆を置いて、描いた絵を見つめる。遂に完成したのだ。

すると、僕の目からぼろぼろと大粒の涙が溢れて膝を濡らした。脳裏に浮かぶはハンスの顔だった。きっと彼がいなければ、僕はもっと早くのうちに死んでいただろうし、自分が有名になることを知らなかったに違いない。彼と話すことが楽しかった、彼とともに絵を描き僕の意見を受け入れてくれたことが心地よくとても嬉しかった。アーサーもジャックも僕にとってかけがえのない存在で恩を感じている。

しかし、彼は、ハンスは僕にとって遥かに特別な存在だった。ハンスは僕にとって親友なのだ。

僕は、絵具やキャンパスを片付け、オーベルジュ・ラブーに戻ってすぐ、アーサーに手紙を書いた。


"ハンスは僕にとって親友のような存在だ。僕は、彼ともっと話をしたいし、一緒に絵を描いたりしたい。彼の最後の手紙によれば、やりたいことが見つかり、もう文通は続けられないと言っていた。文通が難しいならば、こちらから会いに行こうと思うのだが、ハンスはいまどのような状況だろうか。わかる範囲で教えてほしい"


医者だと言って、アーサーを連れてきたはハンスであるから、長い付き合いなのではと手紙を出した。一体、どう返って来るだろうか。

しばらくして、手紙が来た。差出人は"アーサー・コナン・ドイル"からだ。


"少々ややこしい話になってしまうので、直接会って話をしたい。オーベルジュ・ラブーの場所は覚えているから、そちらを訪ねる。私は手紙を出してすぐ、そちらに向かうため家を出ているので返信は不要だ"


「ややこしい話? 何か良からぬことに巻き込まれたのだろうか……」

不安と心配でそわそわしながら、僕はアーサーを待ったのだった。