矢絣の着物に海老茶色の行灯袴。
 そして編み上げ革靴。
 髪はうしろ髪の上の部分だけをひとつに結わえて、小豆色の大きなリボンをつける。

 憧れの女学校の制服は、いつ着てもときめきが止まらない。

 週に一度。多くて二度。
 私、一橋(ひとつばし)あやがこの恰好をできるのは、姉の初子(はつこ)さんが恋人との逢引を楽しんでいるほんの二時間ほどの間だけ。

 半年ほど前、私と初子さんが茶屋で団子を食べながら文学談義をしていたとき、初子さんはうしろに座っていた新聞記者の周防(すおう)公平(きみひら)さんと意見の食い違いからなかば喧嘩になった。

 しかし、なぜかそれから意気投合して、惹かれ合うようになったのだ。

 といっても、華族として生を受けた初子さんと新聞記者の周防さんは身分の違いから、頑固者の父・重蔵(じゅうぞう)の反対に遭うのは目に見えていて、こっそり隠れて会うことしかできない。