どうして、と結婚してから幾度も心の中で呟いた言葉を、シェリルは声に出して呟く。
顔をくしゃっと歪めて、泣きたくなるような気持ちが溢れないようにギュッと胸元のドレスを握りしめる。
愛してると何度だって言うくせに、抱きしめる以上のことは決してしない。
あんなにも、もどかしく私に触れるのに、彼の指は下心を一切感じさせないくらい紳士で。
そんなの、シェリルが断っているからだと知っている。
彼はシェリルの嫌がることは決してしない。
優しくて、優しすぎるくせに、やっぱり少し意地悪だと思う。
「私がどうして欲しいかなんて本当は知ってるくせに……」
触らないでと言うのは、もはや意地でしかない。
あなたに素直になれないのは、何も結婚してから始まったことじゃない。
シェリルが知ってる一番昔の記憶から、彼に素直になれなかった。
いけすかなくて意地悪なのにシェリルを好きなダニエルを試すようなことばかりして、彼の気持ちを量ってばかりで。
それでもどんなに拒絶してもずっと近くに寄ってくるものだから、結婚したらきっとシェリルの拒絶なんて華麗に躱してさっさと自分のものにしてしまうのだと思っていた。
なのに彼はもどかしくなるくらい律儀にシェリルの言うことを聞く。
「……もういい加減、触らないでって夜に私が言わなくなってるの気付いてるくせに…」
はやく、はやく。
燻りすぎて、灼熱のようになっている胸の中の熱い場所が訴える。
はやくあなたのものにして。
そうじゃないとシェリルはそのうちきっと泣いてしまう。