代わりに彼女からひょいとフォークを取り上げて、その小憎たらしく彼女の興味を独占しているチェリーパイの残りにフォークを突き刺し、がぶりと一気に口に入れた。
「あっ!何するのよっ馬鹿!」
「……君が美味しそうに食べていると、意地悪したくなるんですよ」
そうニタリと笑うと、柔らかかったシェリルの表情が瞬く間に怒った猫のようになる。
「あなたって昔から性格歪んでるわよね。……そうよ、初めて貴方と会った時だって、チェリーパイを食べるとか食べないとかで私に突っかかって来たのだったわ!」
「おや、よく覚えてらっしゃいますね。貴女は俺のことなど全く興味ないのだとばかり思ってましたが」
「きょ、興味なんて無いわよ!あなたがすごくムカつくことを言ったから怒りで覚えてただけなの!勘違いしないでっ」
そうして軽く睨んで、残りのチェリーパイが乗った大皿をダニエルから遠ざけたあと、シェリルはべえっと舌を出す。
「もう残りはあげないんだからね。お義母様とメイドたちと食べちゃうんだから」
「どうぞお好きに。俺は今日は書斎に篭って仕事ですから、構えなくてすみませんね」
「むしろ構わなくて結構よ」
ふんっとそっぽを向いた妻をそっと抱き寄せて、艶やかな髪にキスを落とす。
「もう……触らないで」
「どうして?君はもう俺の妻なのに」
そう言って愛おしげに抱きしめて、ダニエルが耳元に唇を寄せる。
「ーー俺以外の誰も君に触れられない。いくら君が拒絶したとしても」
どきん、と胸が大きく跳ねた。
そんな執着を、そんな欲を、貴方は全然見せてくれない。だからいきなりの言葉に動揺して、シェリルはどんどん顔が赤くなっていくのが分かった。
「愛してますよ」
パッと顔を離して、またいつもの読めないキツネ顔でダニエルにそう言われても、シェリルは今の動揺を悟られないように、彼から顔を隠すので精一杯だった。
「知らないわ!」
いつも通りのそのやりとりに微笑んで、ダニエルはシェリルの頭を幾度か撫でた後部屋を去った。