素直になるって決めた。
あんなに胸が締め付けられるような好きになってくれた理由も聞けて、どうして気持ちを返さないなんて不誠実なことができるだろう。
想いを返したいと思った。
貴方だけじゃない、私だって、貴方のことがーー。

「貴方、毎回毎回私が夜会に出るたびに私のファーストダンスを掻っ攫って行くでしょ。誰よりも先に私を見つけて、気付くと横にいるの。でも、一度だけ、私を見つけられなかった日があった。
案の定、私は別な方に声をかけられたのに、どうしてなのか断ってしまって……そして誰にも見つからないように壁に寄って、ずっと貴方のこと、探してたのよ」

「……知らなかった」

「でも、人混みの中に私を探している貴方を見つけて、初めて気付いたわ。私は、貴方じゃなきゃ駄目なの」

「シェリル……」

「初めて会った日から、私のことを揶揄(からか)ったり、意地悪言ったり、いけすかない男の子だって思ってたのに。あんまりにも優しく私のワガママを聞いてくれるから。ダンスの時に力強く手を引いてくれるところも、私の髪に指を絡めるのも、……私が貴方に触れたとき、一瞬目が鋭くなって私に手を伸ばすのに結局触ってくれないもどかしい誠実さも、ぜんぶ好き……なの」

そうして最後の勇気を振り絞って、シェリルは彼の小指に小指を絡めて。

「本当はいつも思っていたの。貴方の唇の感触はどんななのかしら。どういう風にキスをするの?どんな風に私を愛すのかしら。そしてそれは、どんなに気持ち良いんだろうって」

真っ赤な顔のまま、シェリルはほんのりと微笑んで、隣の夫となった男を見上げた。

「触って、下さる?」

「ああ、シェリル……!」

耐えきれない、とでも言うようにダニエルは妻の身体を掻き抱いた。
その背中に優しく腕を回して、シェリルはやっと素直になれた自分に心底安堵していたのだった。