「……それがはっきり分かったら、盲目的に10年以上も貴方に纏わり付いてないですよ。貴女なんて顔とスタイルは群を抜いてますが、俺に対してだけはめちゃくちゃワガママだし、全然触らせてくれないし」

ぐぬぬ、と言われたセリフに歯噛みするが、その通りなので何も言えない。

「だったら、どうして」

「怒った顔が、猫みたいで可愛かったから」

「は?」

ぽかん、とシェリルは口を開ける。
なんだその理由は。ーー初めて、聞いた。

「最初に貴女が気になった理由は、たったそれだけです、敢えて挙げるとしたら。
あとは、……そうですね。完璧な令嬢に見えてお菓子を物欲しげに見てたりとか、拝礼はとてつもなく美しいのにダンスが少し下手だったりとか、……ダンスのとき、少し自信なさそうに俺の手をに縋り付くでしょう。あとは、……そうそう、知らない男が近くに来たら警戒心丸出しの猫みたいにジリジリ距離を取るでしょう。そうして俺の横にピタッとくっついた日なんか、一週間は幸せだったんですよね。まあ、そういうのが積み重なって、貴女が愛おしくなったんです。こんな理由じゃ、貴女は不服かもしれないが」

ひとつひとつのエピソードを、大切な宝箱から取り出すようにして彼は言葉を紡ぐ。
その記憶の先には色んなシェリルがいて、この人はそんな私がきっと大好きで。
こそばゆくなるくらい、彼が私に夢中なのが分かる。
そしてそれが、シェリルは嬉しくて堪らなかった。

「………は、恥ずかしい人ね」

「なんとでも言って下さい。
 で?せっかく俺が言ったんです。貴女から俺へ、愛の告白なんてのは無いんですか?」

「……っ、え」

「……なんて、そこまで自惚れてないです。そんな困った顔しないで下さいよ、傷付ーー」

「はっ、初めて意識したのは、たしか……舞踏会デビューした次の年の16歳くらいの頃、だったと思う……」

驚いたように目を見開いて、ダニエルがシェリルを凝視める。
唖然、と言って良いくらいの間抜けな顔に向かって、シェリルはどんどん顔を赤くしながら続ける。