「まあ、それなりには。悪く無い時間でしたよ、我が領民とも並んでる最中話せましたし、領主がケーキ屋の列に並んでるなんて好感度高いという噂も既に城下には流れ始めてますし」

「あ、相変わらず計算高いわね…」

「頭が良いと言ってくれますか」

少しむくれたように言ったダニエルに、シェリルはふふっと笑う。
そして少し考えて、やはり彼は優しいと思う。

「……嘘、本当は私に気を遣わせないためにそんなこと言ってるんでしょ」

「嘘、ではないんですが。そういう意味合いもあるって分かってるならあえて指摘しないのも優しさですよ、シェリル」

「貴方って人は、嫌味ったらしいんだか優しいんだか相変わらず分からないわ」

口が悪いのだけは相変わらずだ。
そう言おうとして、続く彼の言葉にピタリと止まった。

「貴女を愛しているだけですよ」

シェリルを愛しているから、シェリルに気を遣わせないための台詞を選ぶ。
その言葉に、シェリルは思わず聞いてしまった。

「……一体、私のどこがそんなに好きなの? 私なんてこんなに貴方に冷たくしてるしワガママ放題だっていうのに」

純粋な疑問だった。
彼に冷たくしてる自覚も、彼のみにワガママ放題な自覚もある。
なのにその理由は、未だ聞いたことが無い。

するとダニエルは自嘲気味に笑う。