そう思いながら、侍従長やらが止めるのも聞かずに、ミルフレーヌは飛ぶようにして外へ出た。

「殿下! お待ちください」

「ミルフレーヌさまっ!」

毎度のことながら、侍従長と女官長は負けじと追いかけてくる。そういうところはさすがだと思うが。一度くらいは止めてみたらどうだという不満のほうが先に立ってしまうのだから、どうにもならない。

「舞踏会なんてバカバカしい」

「そうおっしゃらず。この機会がなければ皆さまが一堂に会することもないのですから」

「フン。会う必要があると思っているのか? みんな国政のことは王家と宰相に丸投げ。領地の政だって自分たちでやるわけじゃなし、着飾るしか能の無いあんな恥知らずの連中とダンスだなんて、まっぴらごめんだ」

そう言い捨てて愛馬ジュジュにまたがり、森へと疾走した。

後ろから馬蹄の音が付いてくる。
見なくてもわかる。あの音はシモンだ。

――放っておいてくれればいいのに。
でも、王女を守るのが近衛兵としての彼の任務なのだから追ってくるのは当然なのだ。これで追ってこないようでは、いま以上に腹が立つだろう。

「なんなんだ、この性格。本当にもぉ!」

自分への苛立ちが勢いとなって、森の中に入った時にはまんまと彼らを撒くことができた。

「さあ、ジュジュ、ここでちょっと待っていて」

愛馬に声をかけて、少し開けた草原に出ると、ふと、深紅の花が目に留まった。

「綺麗な花」