災害なんて可哀想に。領地の民はみな無事なのかしら。リュリュ、こんなところに来ている場合じゃないわ、当分は領地で民のために尽くしてあげて。

ドレスだって、こんなに豪華である必要なんかない。ビーズだってこの半分で充分なのに。無駄でしょう?

そんな風に素直な言い方をすれば伝わるものがあるだろう。

でも口から出るのは、男のような可愛げのない話し方と、大きなため息だけ。

「はぁ」
――いやだいやだ。

「あ、あの、どちらへ?」

それでも、人いきれで淀んだ大広間から廊下へ出ると、少しは気が晴れた。

このままもっと清らかな空気に包まれたなら、この不満も消えるかもしない。
そうだ。森に行こうと思った。

「着替える。先に行ってキュロットを用意するように」

「あの、ミ、ミルフレーヌさま?」
「森に行く」

「え?! 何を? お、お待ちくださいっ」

部屋に戻り、止める侍従たちを尻目にさっさとドレスを脱ぎ始めると「あわわ」と慌てて男たちは背中を向ける。

いっそ、その背中を思いきり蹴りつけてやろうかと思ったが、大きく息を吸って我慢した。

彼らも気の毒だと思う。
こんなふうに、いつもイライラしている王女に振り回されて。

周りの者の為にも、いっそ蒸発でもした方がいいんじゃないだろうかと、本気で思った。