貴族の間でも、ひと月近くミルフレーヌの姿が見えないことに不審を抱くものが出てきていたので、それを払拭する必要もあったのである。

怪しんでいたらしいリュシアンと最初にダンスを踊ったことで、お見舞いを断り続けた詫びをした。

『何度もお見舞いに来たとか?』

『ええ。もう、よろしいのですか?』

『どこか悪いように見える?』

『いいえ、相変わらずお美しいだけですよ』
とリュシアンは満足気にクスクスと笑った。

健康をアピールするようにその後も何人かと踊り、頃合いを見計らって壇上の豪華な椅子に腰を下ろしたミルは、隣の椅子に座るマリィに視線を送り、ため息をついた。

「お疲れさま、お姉さま。おかげで今日は踊らないで済むわ」
マリィはクスクスと笑う。

他愛もない話をしたあと、アーロン王子の話になった。
あれから、まさに尻尾を丸めるようにして、アーロン王子はそのまま帰国の途に就いたらしい。従者達が慌てて荷物をまとめ、後を追ったというのだから、呆れたものだ。

「彼の本性がわかってよかった。でも大丈夫、王子ならまだまだいるから心配ない。マリィの相手は、必ず私が見極めるから安心して」

「何を言っているのお姉さま、お姉さまが女王になれば全ては丸く収まるわ」

「私じゃだめだ」

――女王なんかになったら、毎日怒鳴り散らすことになる。

悪役王女が女王になったりしたら、この国は不幸だわ。