「泣くことはないであろう、うっとおしい。そもそもアーロンのひとりくらい追い返せないとはどういうことだ? まったく。相変わらず使えないな」

大きなため息をつくと、侍従長と女官長が顔を見合わせてクスッと笑った。

「なんだ」

「やはり、陛下のお言葉をお聞きできてやっと安心いたしました。さあさあ、ではさっそく王子を呼んで参りますので、よろしくお願いいたしますね」

「まったく、戻ってきていきなり働かせる気か?」

「はいはい、お姉さま、横になってくださいませ。シモンにも控えていてもらいますからご安心を」

そんなこんなとバタバタするうちに「いらっしゃいますよ」と耳打ちされて、アーロン王子の足音がした。

「ミルフレーヌさま」

「アーロン、申し訳ないけれど、ゴホッ。お国へ、帰ってくださる? 熱は下がったのだけれど、ゴホッ。あなたに移しては、ゴホッ、申し訳ないし」

「それは心配だ。姫よ、実は私医学の心得があるのです」

面倒臭い奴だなぁ、とミルが眉を潜めた時だった。

「何をなさいます!」と女官長の悲鳴が響き、衝立の内側にいるシモンが腰を浮かせた。

「王子!無礼ですよ」

大人しいマリィまでもがそう声を上げた時、アーロン王子の手が、衝立に伸びた。

ハッとしたミルは、瑠璃の剣を手にベッドからヒラリと飛び降りるより先に、シモンが衝立を倒したアーロン王子の前に立ちはだかった。

「どういうおつもりかっ!」