「ええ。さっきの赤い髪の女性はこの村の住人なのかって。以前はいなかったようだがって」

「この赤髪は珍しいからな。えっ? もしかして不吉だから国から出ていけとか言われるんじゃないだろうな」

「やだ、大丈夫よ。二週間前から、村の護衛をしてもらっている立派な剣士だって伝えておいたわ」

「ふぅん」

リュシアンは程なくて帰っていった。

――シチューの皿を空にしたことと、釣りはいらないと多めにお金を置いていったことだけは褒めてやろう。


その夜、いつもの習慣のようにミルは店の二階の窓辺に腰を下ろした。

――男の価値なんてわからない。

ミルフレーヌは生まれた時から恋なんて許されなかった。

周りにいた男の子は既に選ばれていて、成人したのちは、その中の誰かを選んでもよし、女王としての気質にかけるようなら他国の王子を迎えればよし。どちらにしても誰かに恋をするということはありえなかったのである。

それに、こう言っては何だがこの世で最も美しいと言われている王族の自分やマリィを毎日見ているおかげで、ちょっとやそっとの美男子に心は動かないというのもあった。
少なくとも見た目を理由に心が動くなんてことはない。

それでもリュリュのことは好きではあった。

『ミルフレーヌ。薔薇に触れてはいけないよ。棘があるから』

『うるさいわね』