なぜなら古くから赤髪は魔女の色と言われているからだ。ミル自身は結構気に入っているが。

それはそれとして。リュシアンは、鼻は高く彫刻のように整った顔のスラリとした美男子なので、女性には非常に人気がある。
それは貴族でも庶民でも同じらしい。

「料理、リリィが出して。私はいいわ、ああいうの興味ないし」

「そう？　ウフフ」
リリィは鏡を覗いて髪を整えてから、シチューを持って行った。

厨房でスジ肉のシチューを味見してみると。
「うまっ」と思わず声が出た。

それはまさに前世の記憶にある牛スジ肉のビーフシチューだった。
二口目は、サワークリームのかわりに水切りヨーグルトを入れて一緒に食べてみると。
「やっぱりうまー」

ナイフもフォークもいらない。
スプーンだけで切れるスジ肉に満足しながら食べているうち、ふとリリィがなかなか戻って来ないことに気づいた。

厨房から覗くと、なにやら話し込んでいる。

頬を染めたリリィは、庶民とはいえなかなかの美人だ。よもやこんなところでナンパをしているのか？幼気な庶民の娘を誑かそうなどととんでもない奴だ。などとムッとしているところにリリィが戻ってきた。

「色々聞いちゃった。っていうか聞かれちゃったのか」

「なにを？」

「あの方、この店に来たのは今回が初めてじゃないらしいわ。きっとお祖母ちゃん接客して、私が出かけていたのね。もし一度でも見かけたら忘れるわけないもの。それはともかく、以前はミルがいなかったことをご存知だったの」

「え？　私？」