水を出して、彼を見下ろした。

ちなみに声は全く変わっていないので、そこには気を付けた。
お腹の底から出すように低い声で「なににする?」とぶっきらぼうに聞く。

リュシアンはちらりとミルを見上げたが、表情を変えることなく「この店の一番美味いものを頼む。それとワインを」と言った。

やっぱり気づいていないらしい。

――ミミズクのロロは気づいたというのに、薄情な男だ。

がっかりもしたしうんざりもした。

「おすすめがいいってさ」

「え? どうしよう、なにがいいかしら」

「あー、スジ肉のシチューがあるからこれでいいんじゃないか? 反応を見るといい。どうせ一見さんだしもう来ないだろうし」

「そうね。それにしても綺麗な人ねぇー、貴族なんだろうけど、あの髪だから上流階級の方ね。白馬に乗った王子さまってああいう人を言うんじゃないかしら」

ブリュウ家は何代も前に王女を妻に迎えたことがある。
なのでリュシアンの髪は黄金とはいわないまでも、美しいはちみつ色のブロンドだ。瞳は紫ではなく、愁いを帯びた深い青だ。

この国の人々は、庶民も貴族もほとんどの者は髪も瞳も茶褐色である。

特定の髪の色や瞳の色は、それだけで特権階級を表し、それだけでひとつの財産のようなものでもあった。

ちなみにいまのミルの赤い髪は最も嫌がられる髪の色である。