できれば傍にいてあげたい。

なんだかんだと用心棒の仕事でお金も貯まってきた。この調子でいけば馬を手に入れられる日も近いだろう。
あとは身分証さえ手に入ればここを拠点にして王都と自由行き来することができる。
だけどどうやって、手に入れていいかがわからない。ミルという赤毛の女は存在しないのだから。
こうなる事が予測できたら、王女でいるうちに身分証のひとつやふたつ捏造しておいたのに。立場が変わると、どうしたらいいのかも想像できないのだから困ったものだ。

ただ、闇でそういう物を売買していると聞いたことがある。
その闇もどこかはわからないが、金さえあればなんとかなるかもしれない。

となると、まずは店にも繁盛してもらおうかと考えた。

資金ができれば自分がいなくなってもリリィは用心棒兼店員を雇うことができるだろう。

あくる朝、早速リリィに提案してみることにした。

「ねぇリリィ、このスジ肉の煮込みなんだけど、もう少し柔らかくしないか? いや、味付けはね、とっても美味しいんだよ。でももうちょっと柔らかくできたら、もっともっと人気が出るんじゃないのかなぁってね」

出来るだけ傷つけないように、最大限に配慮して言ったつもりだった。

なのに、リリィの表情は見る見る曇り、眉を八の字にしてがっくりと肩を落とした。

――まずい。
「あ、ごめんごめん忘れて」

「ううん。いいのよ、自分でもそう思っていたから。時間をかけてじっくり煮込めば柔らかくできるってわかっているんだけれど、燃料費をかけたくないし」

――そうか。なるほど。