「いやー、見事だねぇ姉ちゃん、俺の奢りだよ、さあ飲んでくれ」
「あ、ど、どうも、ありがとう」
思わずなんだか照れくさくなった。
なにしろ王宮では威張り散らしていたので、こんなふうにお礼を言うのも久しぶりのことだ。
結局食い逃げ男はおとなしく金を払い、すごすごと逃げるようにして街道を消えた。
やれやれと瑠璃の剣に感動しているミルフレーヌを野次馬が店に引っ張り込みワインやらつまみやらを自分の席から持ってきて並べ、ちょっとした宴会になったのである。
店の女性もよほどうれしかったのだろう。是非食べて行ってくれと言う。
「私はリリィ。この店は祖父母とやっているの。あなたのお名前は?」
「ミル」
両親や妹だけはミルフレーヌとをミルと呼ぶ。
ミルフレーヌと名乗ったところで、黄金の髪でもない今は誰だかわからないだろうが、わざわざ本名を名乗るまでもないと思った。
「よろしくね、ミル。この辺じゃ見かけないけれど、どこから?」
「うん。私は旅の途中でね。この国ははじめてなんだ」
「そうなの」
リリィは美人だ。恐らくモテるだろうに、結婚はしてないのだろうか? 祖父母と彼女だけで店を切り盛りするのはなんとなく不用心な気がした。
案の定「さっきのようなことは時々あるのか?」と聞くと、彼女の顔は曇る。
「今年に入ってからは時々……」
「というと、それまではなかった?」