ジャーン!
シンバルのような太鼓の音が鳴り響き、
「ミルフレーヌ王女さまのおなーり」
侍従のよく通る声が響き渡った。
それまでガヤガヤと賑やかだった大広間が、水を打ったように沈黙し、と同時に、その場の誰もがうやうやしく頭を垂れる。
張りつめた空気の中、ゆっくりと扉が開いた。
少し間をおいて、軽やかな衣擦れの音が広がり、カツン、カツンという華奢な靴音が天井へと高く響いていく。
ひとつふたつと音を数え、その音が止まるのを待ち、
侍従による合図の音を聞いて、人々はゆっくりと背中を伸ばして顔を上げる。
全ての視線を集めるのは、
王女ミルフレーヌ。
この国で最も美しく誰よりも誇り高い王女は、少し顎をあげるようにしてまっすぐ前を向く。
彼女の黄金に光る髪、輝く紫色の瞳、
それは王家の証。
この国では、王の血をひく者だけがその髪と瞳を持って生まれる。
民衆が彼女を目にできるのは建国の日だけ。
大広間に集まっている者たちは、貴族の中でも特に高貴な殿上を許された一族であるので、時々はこうして彼女を間近に見る機会がある。
そんな彼らでも王女を前にすると、胸踊らせて感嘆のため息を漏らし、子供のように我を忘れてうっとりと見惚れてしまうらしい。
それはいくら努力をしても決して自分が手にできない、その髪と瞳のせいかもしれなかった。