恐ろしいのだろう。
女性は体をすくめ「でも」とは言ったものの、それ以上は言えない様子だ。
間もなくもう一人飛び出て来たがそれは老人で、これまた頼りになりそうもなく、あきらめたように女性の肩に手をかけた。

――ったく。大の男が。

ミルフレーヌは男の前に立ち、見上げるようにしてねめつけた。
「食い逃げか。みっともない」

ミルフレーヌの身長は百六十センチなので、男は恐らく百九十はあるだろうか。ジッと見ているとちょっと首が痛かった。

「なんだ、女」
「不味いといいながら食べたんだろう? それなら払えよ、外道。クズ」

「なんだと? この女」

――お、初めて聞いた口応え。
この状況で、ミルフレーヌはちょっとワクワクした。

王宮では誰一人言い返す者はいない。宰相のカイルや侍従長の説教なら聞かされるが、こんなふうに敵意剥き出しの目を向けられるというのは生まれて初めての経験である。

「ふざけるなよ」
「ふざけているのはどっちだ。いいから払え」

男の顔は見る見る険しくなり、腰から剣を抜いた。

いつの間にか人だかりが出来ていて、あちらこちらからキャアと悲鳴が上がる。

早速、瑠璃の剣を試す時が来たとばかりにミルフレーヌも瑠璃の剣に手をかけ、鞘を抜いた。

――剣よ、脅す程度に懲らしめてくれ。
それからはアッと言う間だった。