――生きていくためには、まずは仕事を探すか。
と言っても私になにができる?
自慢じゃないが、手に職といえるものは何一つない。
前途多難だなぁとは思うものの、それでもなんだか心がうきうきと跳ねるようだった。

これで、皆に嫌われることもない。
ガミガミと文句を言わなくても済むのだから。

歌を口ずさみながら呑気に歩くうち、森から出た。
季節は晩夏。様々な実をつけて、一面の畑が広がっている。
「綺麗だな」と思わずつぶやた。

王国には日本のように四季があり、湧き出でる水と肥沃な大地のお陰で国としては裕福である。

土地も仕事も持たぬ民には王家所有の土地を貸しているので食うに困ることはない。もっとお金がほしいなら鉱山で働くという道もあるし、この国は上質な絹を生み出す蚕がいるので繊維業も盛んだ。女ならば機織りなどの繊維工場で働くという選択肢もある。

働こうという意欲がある限り、健康ならば生きていけるのだ。
放っておいても幸せに暮らせるではないかというと、そうでもない。医療はまだまだ進んでいないし、働かずに人の金を巻き上げて楽をしようという悪人は絶えることはない。
国が裕福な分、他国には常に狙われていて、国境ではいざこざが絶えない。

国政という意味において、やらなければならないことは沢山ある。

今の宰相はカイルと言って、厳しいが根は善人だ。
なので彼が元気なうちは心配はないが、それはあくまでも父の代での話だ。

王家に王子はいない。
男性である王子がいるならば迷うことなく王になるが、王女の場合は選択肢がふたつある。

ミルフレーヌかマリィが女王になるか、他国の王族から夫を迎えて王とするか。そのどちらかだ。

『お前が望んだことだ』