「五百ルークだよ。貨幣の価値が全くわからないお前には、それで何が買えるかもわからぬであろう?」

「仕方がないではないか、貨幣など使ったことがない」

王女が誰かにか施しを渡すにしても、それは金か、銀、もしくは宝石である。
貨幣は基本的に城下で使うものだ。宮中にいるミルフレーヌが使うことはないのである。

「はん。そんなことは自慢にもならぬ。よいか、それで買えるものはパンひと切れじゃ。せいぜい飢えて死なぬようにの」

――パンひと切れ?

今更のように、剣じゃなくて財布を選んだ方が良かったのかと後悔したが、遅かった。
魔女はヒョイと杖を振り、姿を消してしまった。


――やれやれ。

瑠璃の剣を手に立ち上がったミルフレーヌは、あらためて自分の姿を振り返った。

貧相な服装だった。

城を出た時の服と形はそう違わないのに、全く別物に見えるのは何故かといえば、なるほど素材が違うとこうも変わって見えるのかと納得する。

キュロットも、ブラウスも、上に羽織ったフード付きのマントも。形はそのままで、刺繍が施された上質はシルクから、生成りの綿や麻布に変わっているのだ。

魔法とはたいしたものである。
「へぇー」と思わず感心した。

さて、これからどうしたものか。

見上げた空は晴れていて、まだ陽は高い。
とりあえずは明るいうちに里まで出て、寝場所を確保したい。

気のいい老夫婦の家で泊めてもらったりできれば良いが。野宿も覚悟しなければならないか。