「うわ、なんだこいつ! 女みたいな顔してるくせにっ!」
 すぐに応戦体勢に入ったダニエルに、あっという間に押さえつけられてしまった。
 少年から大人へと成長しつつある十三歳のダニエルと、年齢のわりに小柄な十歳のユーディアスでは、あまりにも体格に差があり過ぎる。

「ちきしょう! ちきしょうっ!」
 悔しさに真っ赤になりながら暴れるユーディアス。
 何が起こったのかと集まり始める村人たち。
 セシルはおろおろしながらも、必死にダニエルに頼んだ。

「ダン! ダンやめて!」
 ダニエルはムッとしたように、両手で押さえつけていたユーディアスをセシルの目の前につきだした。

「俺じゃねえだろ。急にこいつが、つっかかって来たんだろ! お前よりよっぽど女みたいなのにな!」
 乱れた髪が赤く上気した頬にかかるユーディアスは、確かにダニエルの言うとおり、とてもかわいらしかった。

 柔らかな曲線を描く輪郭。
 弓形の眉。
 すっと鼻筋の通った形のいい鼻。
 濡れたように赤い唇。

 全てが姫にふさわしい可憐さの中、そこだけは少年らしい意志の強さを感じさせる大きなえんじ色の瞳が、凛と輝く。
「何も言い返さないからって……傷ついてないわけじゃないんだからな……!」

「はあ?」
 突然の言葉にダニエルは怪訝な顔をしたが、セシルは心臓をわしづかみにされたような気がした。

「相手が黙ってるからって、何を言ってもいいんじゃない。あんた、俺たちより年上のくせにそんなことも知らないのかよ……!」
「こいつ! 生意気にっ!」
 ユーディアスの腹に叩きこまれようとしたダニエルの大きな拳に、セシルは無我夢中で飛びついた。

「やめて!やめてっ!!」
 顔を上げれば、頬が触れそうなくらいすぐ近くにユーディアスの顔がある。
この上なく真剣な表情で問いかけてくる。

「お前だって嫌だろ? あんなふうに言われると本当は嫌だよな? ……まさかお前まで、俺のほうがこの格好似あってるなんて……お前よりよっぽど女みたいだなんて……そんなこと思ってないよな?」
「………………」
 一瞬、セシルは答えることができなかった。